わが国の認知症の人は、2025年には65歳以上の高齢者の約20%(約700万人)程度まで増加すると推計されています。これに伴い、認知症の人を介護しているご家族の介護疲れによるうつやストレス、社会的な孤立、睡眠障害等も増加していくことが懸念されています。
認知行動療法などの心理的な治療やサポートが、認知症の人を介護している方(以下、介護者)の精神的な苦痛を和らげ、健康状態を改善することが報告されています。ただし、介護者は介護によって時間的にも体力的にも制約が大きいため、場所や時間を選ばずに実施できるインターネットを用いたプログラムの有用性が期待されています。海外での研究の結果からも、インターネットを用いたプログラムにより、介護者の認知症や介護に関する知識が向上し、燃えつきや不安、うつが軽減したことが報告されています。
The World Health Organization(WHO)によって、iSupport(アイサポート)という介護者のためのオンライン自己学習支援プログラムが開発されました。iSupportは、介護者の知識と技術の向上、精神的ストレスの軽減、認知症の人と介護者双方の生活の質の向上を目指すものです。私達の研究グループでは、公益社団法人認知症の人と家族の会の協力のもと、iSupportを日本語に翻訳し、さらに日本の文化や介護保険制度等を反映させたiSupport日本版(iSupport-J)を作成しました。
また、介護うつや燃えつきを予防したり早期発見したりするためには、介護者自身が早いうちに自分のストレスに気づき、介護サービスなどに相談できるようになることが重要です。そのため、私たちの研究グループでは、介護者が感じている介護の負担感やうつ症状、不安などの精神状態を自分で気づくことができるように、さらに、介護を通して良かったと思うことにも気づけるように、インターネットから心理評価を入力できるプログラム(ePRO)を作成し、iSupport-Jと組み合わせたiSupport-Jシステムを開発しました。
本研究では、iSupport日本版(iSupport-J)が介護者の皆様にとって、認知症や介護に関する知識と技術の向上、介護によるストレスや燃え尽きの軽減に有用かどうかを検証するため、ご協力いただける被験者様を募集しております。
●研究課題名
認知症介護者のためのインターネットを用いた自己学習及び心理評価プログラムの開発と有効性の検証
●研究代表者
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター病院 大町 佳永
この研究は、厚生労働科学研究費補助金認知症政策研究事業「認知症介護者のためのインターネットを用いた自己学習および支援プログラムの開発と有効性の検証」(研究代表者:大町佳永)、国立精神・神経医療研究センター精神・神経疾患研究開発費「認知症介護者のためのインターネットを用いた心理評価・自己学習ツールの開発」(研究分担者:大町佳永)により行われています。国立精神・神経医療研究センター病院(NCNP)が代表研究機関であり、分担研究機関として獨協医科大学が参画しています。